事例紹介 (1) 電機メーカーの経営効率化

事例紹介

今回は、以前にアスク総合研究所にご依頼いただいた事例をご紹介します。

事例の概要

以前、大手電機メーカーの子会社(産業向け電機機器製造業、年商1000億円)から、あるご依頼を頂きました。

「経営改革を推進して、経営効率化(ROA)を高めて貰いたい」とのことです。

具体的にいえば、ゴールは「営業利益率在庫回転率を同時にアップすること」に他なりません。

これが問題となる背景には、「売れないものは作りません」と「お客様を待たせません」という矛盾が、あちらこちらの利害関係部門の判断や行動に生じている、ということが想起されます。

改革のための土台作り

そこで、社内から様々なメンバーに集まってもらいました。

本社からは計画部門、マーケティング部門、営業部門。また、主要な営業支社からも。
さらに2工場から設計開発、生産計画、調達購買、生産技術、製造、品質保証、サービスの各部門。

それぞれ経営幹部を除くキーパーソン1名ずつ、合計20名のチームです。
なお、社長推薦で取締役1名にも参画頂きました。

具体的な進め方

このメンバーに、弊社の「アスクメソッド」を活かしたビジネスワークショップを実施。
全体を受注特性(顧客タイプ)の異なる2チームに分け、3カ月間にわたって毎週土曜に開催しました。

ワークショップの中では、最初から最後まで絵を描きながら、共通の絵に向けて対話や議論を重ねていきました。

参加者全員が「ワカル」ための道具として絵を描き、対話しながら論理の混乱をほどいていくという過程です。
これが、参加者のマインドチェンジを引き起こすための非常に重要な仕掛けであったことは言うまでもありません。

ここで大切なことは、個々の絵を単発的な絵ではなく、絵と絵がつながっていて、相互に意味のある関係性、論理的な道筋(ストーリー)を持ったものにすること。

まさに「ロジカル」(Systematic)な手順と、人間が行う「創発的」(Systemic)な個々の作業を融合した進め方です。

立体思考によるアプローチ

各メンバーにキチンとしたものの見方・考え方を促すためには、例えば次のような作業を行います。

まず、各メンバーに「入り口の絵」として、

  • 現在各部門で何が起きているか
  • 今後何が起きそうか

といったことを思いのまま絵を描いてもらいます。

次に、

  • これらが事実なのか、あるいは根拠をもった意見なのか?
  • 根拠はないが論理的に考えることで説明できる部分なのか?
  • 理窟(論理)だけでは不十分なため想像したり勘で感じ取った部分なのか?
  • 全く個人の主観的な感情による部分なのか?

という観点で内容を深掘りし、それぞれの部分の絵を区分けしながら整理します。

重要なのはここから!

これら部分部分を、「物理的実体の集まり」として捉えてはいけません。

何がしかの関係によって「つながった全体」として認識して紐づけすることが重要です。

各メンバーが観ている「各部分の内容・文脈(コンテクスト)」や、「各部分の関係性(因果関係)」には、少なからず見解の相違が存在しています。

アスクが担当する極めて重要な役割は、
『この関係性づくりの対話や議論に中間介入し、5Pの観点から交通整理をすること。』

時には「あえてコンフリクトを引き起こし、本音をえぐり出す」こともあります。

絵を描きながら、それをベースに対話する。

この作業を繰り返すことで、各メンバーに「自分の行動を省察的に捉え、振り返り、持論を問い直す」ことを体験して頂きます。

今回のケースでは、

  1. 誰が見ても同じに「見える世界」の物事から関係づくりを行う
  2. 見えない世界(論理では説明できない領域)に「根っこ」を探る
  3. 根っこを固めてから、改めて「見える世界」に戻ってくる

といった「立体思考」的なアプローチで2チームをリードしました。

アクションラーニングへの昇華

このような作業を行い各チーム内での問題の定義付けが終わった後、2つのチーム間でも擦り合わせを行いました。
この擦り合わせの狙いは、「適切な内省化を行い、持論が固定化するのを防ぐ」ことにあります。

もちろんお互いのチーム内では、これまでの対話や議論を通して強い関係性ができています。
そこへ、更にもう一方のチームからの率直的な意見を聞き出して、持論やノウハウの固定化を防ぎます。

これが、後述の「アクションラーニングのサイクルを回す」ためのキモとなります。

この作業だけに1か月(土曜日終日のみ)の期間をかけました。

これにより、

  • 「営業利益率と在庫回転率の両軸に悪影響を与えている(または、与えそうな)問題意識」が各部門でバラバラ

だったのを、

  • 全社的に見解が統一化された共通の問題として定義しなおし
  • 持続的なアクションラーニングの方法を用いて、問題解消、課題解決を推進する

という流れに持って行きます。

アクションラーニングは、「仮説設定、状況見える化・測定検証、内省化、新たな仮説とストレッチ目標、・・・」というサイクルを回していく手法ですが、これは別に詳しく取り上げます。

成果

今回のビジネスワークショップでは、以下のような成果が見られました。

  1. 利害関係者(利害部門)間での暗黙の厚い壁が崩壊した。

    各職場に戻ってからも、部門間・階層間の垣根を超えガチの対話やオープンな議論ができるようになりました。
    これにより、お互いの視野がぐっと広がり、斬新的な提案・提言が連発されるようになったそうです。

    したがって、組織構造が「フラット化」してきたようだと受け止められた方が多かったようです。

  2. 部門によっては、他部門のメンバーとの初めての対話の機会となった。

    工場内のメンバーにとっては、営業やマーケティング部門のメンバーと同じ土俵での議論は初めての経験だったそうです。

    仕事の結果を工場内の損得でしか見てこなかった工場内メンバーが、他部門の仕事内容や仕事への思いを知ったことで、物事を常に「スルー」で見るようになり、全社最適な観点から状況判断をしなければならない、というように意識の変革が起こったとのことでした。

受講者の声

『課題解決に向けたアクションラーニング・サイクルでは、次第に自分たちで回し方を学び、他部門と連携して挑戦的な課題を設定し、やり遂げるようになっております。』(下記)

『全社在庫管理もモグラ叩きの状態で不安定の状況から、全社部門横断的で情報「スルー」の方針の下、1年後には棚卸資産回転日数は業界平均を大幅に上回る良い成果が出てきております。
 製品を市場に送り出すビジネスシステムの強さが増してきたことは言うまでもありません。』

また、この会社では、これまでの学習成果を生かし、VOC(顧客ニーズ、要望)の吸い上げから開発テーマ設定、そして商品化、市場導入までの一連のプロセス連携とデータ連携の性能強化の課題に取り組んでいます。

ここでも全社関係部門メンバーが修羅場の中で絵を描きながら、衆知の統合を試みているようです。

まとめ

このような改革の推進で重要なことは、「絵を描きながら考え、対話を通して論理の混乱をほどくこと。
つまり、「キチンとしたものの見方」ができるかできないか、が非常に重要だと考えています。

ご存じの通り、昨今「AI」というワードが流行しています。
AIは、ビッグデータを学習させて最適解を導き出すものです。

AIが組織行動を学習する前に、もっと人間自身が会社組織をONE TEAMにするために学ぶべきことがあるように思えてなりません。