14. 早く新規事業を立上げる!(経営改善支援と経営基盤強化 その2-2)

アスクメソッド

前回は、新規事業の育て方の①として、以下のようなお話をしました。

資金力に余裕がなく、早期に新規事業を立ち上げたい場合
既存の固有技術(自社の強み)を活かしたシーズ志向アプローチ
地元の企業や既存の顧客とのリレーションが強い場合
マーケットインによるニーズ志向アプローチ

 

中堅中小企業企業において、ニーズ志向アプローチでは、まず「地元の企業」や「既存の顧客がいる業界」が望んでいる価値(お困りのニーズ、顧客が求める要求)は何か?ということを探ってみることからはじまります。

もちろんこのためには、上記の対象となる方々と広く深い意見交換の場を持つことや、彼らのビジネスの現場を観察してクライアントも気づいていない真のニーズを発見することが必要となります。

真のニーズを把握することができれば、

  • クライアントが持っている資源(技術特性)だけでニーズへの適応は十分可能なのか?
  • 自社単独での開発が限界であれば、どこの協業相手と技術融合すればニーズ適応が可能となるのか?

など、イメージを大きく膨らませて新製品アイデアを発想することも必要となります。

なお、ここで発想した新製品・新サービスは、その技術特性を他の顧客からの視点に置き換えてみれば、その顧客への応用展開(技術シナジー)も可能となるはずです。

資金力に余裕があっても、既存の事業ライフサイクルが衰退期の場合

続いて二つ目は、②資金力に余裕はあるが、既存の事業ライフサイクルが衰退期のケースにおけるアスク総研の取り組みの方法についてです。

このケースは、既存の事業活動が儲けの柱となっている時期に、そこで稼いだ収益を次世代の事業基盤の育成にシフトする必要があるなど、「早く新規事業を立上げて、今後の事業ポートフォリオを見直したい」という場合です。

この場合、既存の事業が儲けの柱となっているうちに、人材・情報・技術・設備・資金といった既存の経営資源を、将来の新規事業の立上げや成功に向けて、機を逃すことなくいかに戦略的に有効活用するかが鍵になります。

その中でも特に、アスク総研では経営資源としての人材が重要と考えています。

例えば、外部から新たな人材を獲得し、既存の事業の要となっている現有人材との間で相乗効果を生みだす人材融合化に成功している企業では創発的なアイデアが生まれ、新たなビジネスチャンスが誕生しているケースが多く見られます。

とはいえ、最近は優秀な技術者や、高度にプロフェッショナルな人材を外部から採用することは非常に厳しい時代です。現在は自社の中でも比較的弱い分野だとしても、新規事業として会社の柱となる分野を見極め、可能な限り戦略的な人材育成・人材開発投資を行ってもらいたいものです。

一方、幅広い知識や経験を持つ定年後のベテラン人材の活用や、外部のコンサルタントに人材育成・人材開発を委託するのも一つの方法でしょう。

しかし、座学で終わってしまう教育研修や一般公開されているセミナーでは、望んでいるような成果が出せないことが多いでしょう。「ただの先生」ではなく、一緒に新規事業立ち上げプロジェクトの現場で協業できるファシリテーターを選ぶことが大切です。この協働作業を進めていくプロセスで、プロジェクトメンバーが特定の成果を達成するのみならず、斬新で実践的な技術スキルや技能スキルを体得したり、課題解決能力や経営ノウハウなどを経験するなど、多くを学ぶことができるはずです。

ここで注意すべきは、外部からの人材登用や、若者のモノの見方・考え方への抵抗意識、変化を受け入れようとしない幹部の態度や組織の風土が、新規事業への取り組みの大きな障害になることが多いということです。
歴史的に築いてきた前例主義的な思想に意識的に拘るあまり、このような新たな人材による斬新的なアイデア発言や提案に対し、意見交換の場もなく一方的にバリアを張る企業内ドラゴンがどこの会社を見ても何名かは存在するものです。
しかし、このような企業内ドラゴンこそ、緊急時には組織内のあらゆるところから人材をかき集め、「周知を統合」できる貴重な人材であることが多いのも事実です。敢えて膝を突き合わせて、根気よくガチ対話を重ねながら、「しっかり主張もするし、しっかり協力もする」といった協働的な姿勢で、新たな新規事業組織の風土を創っていきたいものです。

早期に新規事業を立ち上げる場合の流れ

以下に、早期に新規事業を立ち上げる場合の流れをまとめます。

  1. 自社シーズの棚卸し:固有技術、特許など
  2. 技術特性の抽象化:自社の持つ技術が、機能としてどのような価値を持つか?
  3. 用途市場の探索:どの市場、どのような顧客のもつ「どのような悩みや課題の解決」に役立ちそうか?
  4. ニーズ探索:その市場、その顧客のお悩みや課題は、どのようなニーズ機能(要求機能)として見ることができるか?
  5. 技術機能の検証:自社の持つどのような技術機能(技術のはたらき)でニーズへの適応は可能か?
  6. 技術の組み合わせによる新製品アイデアの創発:さらには他社とどのような技術の組み合わせがあれば、新製品の素になる新たな機能が生まれるのか?
  7. Who-What-Howの仮説:シーズ(固有技術)の持つ機能と、ニーズ(要求機能)の適合性から新事業ドメイン仮説を創造
  8. 事業性検証:市場でのポテンシャル調査と検証から、事業コンセプトの裏付けを取る
  9. 内部整合性の評価:そもそもの目的に適合した新規事業開発計画の仮説とアクションプランを作成
  10. 持続的な探索と学び:仮説と実践による検証、そして学びを繰り返しながら、持続的に新規事業の芽を生み育てる

このような調査、仮説設定、検証などの流れを通じて、新規事業を早期に立ち上げる施策を検討していくのがアスク流です。

資金力に余裕があり、将来の理想的な事業ポートフォリオを考えたい場合

最後は、③資金力に余裕があり、将来の理想的な事業ポートフォリオを考えたい場合についての取り組み方法の一例です。
長期的に業界をリードできる商品・サービスで次世代事業の基軸を構築したい」という場合の方法で、大企業などでもみられる方法です。

まず、近未来(10~30年後)の環境変化を演繹的に予測し、その変化した環境下で求められるニーズから、求められる商品・サービス価値(コンセプト)を仮説設定します。

もちろん現状では、バックキャスティングから読み取れる技術戦略ベクトルを大きく逸脱することなく(トランペットのような広がりのある枠組みの中で)、市場で新製品・新技術の仮説検証と学習をスパイラルに繰り返しながら、将来に向けて変化を実践していくことには変わりありません。

バックキャスティングとは、未来を予測する際、目標となるような状態を想定し、そこを起点に現在を振り返って今何をすべきかを考える方法で、いわば未来からの発想法です。

流れとしてまとめると、以下のようになります。

  1. 未来におけるニーズ抽出:近未来(10~30年後)のユーザーの環境変化を現状から演繹的に予測
  2. 市場・顧客への提供価値:その環境下で求められるニーズから、サービス/プロダクトのコンセプトを設定
  3. 未来の技術ロードマップ:コンセプト実現のための技術をバックキャスティングし、自社の技術ロードマップを作成

新規事業を進めるために大事なこと

新規事業の立ち上げは、持続的・継続的な活動です。

従って、途中で諦めてしまえば経営者のみならず、むしろこれに向き合ってきた社員にとってトラウマとなり、再び新規事業立ち上げにチャレンジする際にも「どうせ~だろうから」と自信を持てなくなってしまいます。

とにかくやり続けること決して活動を止めないことが重要です。

経営環境が絶え間なく変化する現代では、動き続けるからこそ「成功や失敗の経験」を得ることができますし、「偶然の出来事」に出会うこともあります。

人は「失敗の経験」や「偶然の出来事」から多くを学び、その教訓をチャンスや好機に変えることができます。失敗しっぱなし、やりっぱなしでは駄目です。

経験を振り返り、視点を変えて、新製品アイデアの創発や新たな市場/顧客への提案活動を繰り返していけばいいのです。

この新規事業開発の取り組みは一筋縄にはいきません。

しかし、仮説を検証しながら、成功や失敗の経験から学び続けることで、社員の思考や行動を大きく変化させていくことができます。これを継続的に促進するために、アスク総研はお客様のクロスファンクショナルな社員と共に事業モデル創発チームを立ち上げています。

ここでは、新事業ドメインの有望仮説を抽出するまでの道筋を、共創ワークショップ形式でアスク総研がファシリテーターとなり、ディスカッションの交通整理をしたり、斬新的な切り込みをするなど、顧客目線でのサポートを行っております。また、さらにそれ以降のステージでは、顧客への新製品・新サービスの提案活動の中で、効果的な進め方やこの経験そのものが無駄にならないような学び方(「経験学習サイクル」の促進方法)を教えています。