お客様からのご相談
近年、若手社員とミドル層との間で言葉遣いの相違、考え方の違いが表出化し、間違えばハラスメントになりかねないような部下への言動の報告も上がってきています。何でも話せるような職場の雰囲気ではなく、それなりに共に言われた事だけは粛々とこなしていますが、チームや組織が一丸となって自発的に新たな取り組みに挑戦をするようなことはなくなりました。
特に若手社員は、会社で「何をやりたいのか」、「どのような力をつけたいのか」、「どのようなプロになりたいのか」など、個人のアイデンティティを聞いてみてもよくイメージできず、突然と退職願いを提出することも少なからず起きています。
他社で実際にあった事例
企業ビジョンは図のように、「経営者の思い」を持って複数の視点から検討しますが、経営者の目先の思いが強すぎたため「如何に稼ぐか、如何に競争に勝つか」を経営戦略のごとく企業ビジョンとしてまとめたり、または企業ビジョンに複数の視点すべてを総花的に織り込んだため、未来は一体どうありたいのかさっぱり理解できくなったなどの事例を見ることがあります。
本来は、
- 実現が可能で望ましい組織の将来像
- その組織に相応しいユニークで差別化されたものであること
- 現状よりも魅力的で心に訴える力を持つもの
でありたいものです。
企業ビジョン形成の方法としては、会社の企業風土や経営スタイルによって、
- 経営トップ層の経営理念、経営哲学にもとづき進める方法
- インターナル・マーケティング(顧客満足と内部組織の協働/連携)を軸に進める方法
- 社員のキャリアビジョンとの連携を意識しながら進める方法
など、いくつかの進め方があります。
下記の説明は、「3.社員のキャリアビジョンとの連携を意識した進め方」の簡易事例を示したものです。
- 企業のビジョンについて、経営トップ層は会社のアイデンティティ(または既存の企業ビジョン)と現実とのギャップ(実際に何が起きているのか)について再認識する。
- 従業員は個々人が問題として見る状況を識別する。
例えば、今の仕事にどのような意味があるのか?、自分はなぜここに居るのか?、自分は何を達成したいのか?そのための障害物は何か?、自分はこの会社でどうありたいか?、10年後に会社はどのような姿でいてほしいのか?、など個人のアイデンティティを自らの言葉で明文化する。
これは立場の違う経営トップ層の考えの前提・暗黙の仮定を取っ払ったうえで行う行為です。 - 個々人は、各個人のアイデンティティをもとに、既存の企業ビジョンと仕事に対する自分の思いと他人との関係性を振り返りながら、満足のいく点・不満足な点について仲間と意見交換を行います。この時の方法として、問題認識の全体を俯瞰的に把握するために、「リッチピクチャー」に表現した各個人の問題認識についての感じ方を互いに発表し、議論を通してそれぞれの感じ方を理解しながら共有を図ります。この際、何事も絵にする、書き出してみる、そうすることで自分の中の考えが整理されます。特に、図・絵は視覚的なものなので、右脳でイメージしたことを左脳で言語化するという利点があります。
- 全員の意見が出揃ったところで、経営トップ層と一緒に協働ワークショップの場を持ちます。ここでリッチピクチャーに表現した内容を擦り合わせ、経営トップ層の抱える企業ビジョンの前提や仮定が今の会社に取って相応しいかどうか、社員のキャリアビジョンとの関係性はどうかの議論、調査、データ分析を行いながら、自社にとっての新たな企業ビジョンの根底定義を探索することになります。
- 企業ビジョンで変えるべきこと、残すものを明確化し、新たな企業ビジョンの形成と個人のキャリアアンカーの見極めを行います。
ポイント
企業ビジョンの形成において、「企業ビジョン実現のためにやるべきこと」と「社員のキャリアビジョン実現のためにやりたいこと」とのバランスを取ることは、みんなが納得感を持ち社内で仲間意識を高める意味において極めて重要です。
このバランスを取ることによって、個々人のやる気を高め、他人と一緒に考え行動することで人と人との関わり方(「関係性の質」)に変化を促し、個々人は仲間との仕事が面白いと自分で感じるようになります。これらの相互作用を高めることで「思考の質」が向上し「行動の質」にも変化が生まれてきます。仲間と一緒に新規性のある挑戦的な仕事への取り組みを行うことも可能になってきます。
このように、組織の「業績目標」と個人の「学習目標」のプランニング(仮説)と検証・学習(内省による振り返りと持論の問い直し)の「経験学習サイクル」を回し続けながら企業ビジョンを社内に浸透させていきます。とにかく、このような「持続性のある学び」と企業ビジョンの意味を共感できる「思いのつながり」を会社組織に植え込むことが企業ビジョン浸透には欠かせません。
弊社も一緒に企業ビジョン形成(または検証)のための協働ワークショップに参加し、多義的・多角的な視点からアドバイスとファシリテーションを行います。
次に、この企業ビジョンの根底定義(共通の意味づけ)を社内浸透させるため、全社組織規模に応じた人数のセッションリーダーを選出し、企業ビジョンへの「思いがつながったリーダー」として育成します。
この各セッションリーダーが中心となって経験学習サイクルをうまく回せられるようになり、各組織で考え方や行動に変化がみられるようになるまでサポートいたします。